越後長岡の風情と芳香に浸る、醸造の町・摂田屋巡り【1】越のむらさき~吉乃川編

雪国・越後長岡にも待望の春がやってきました。町歩きが楽しい季節の始まりに、「醸造の町」摂田屋(せったや)巡りはいかがでしょう。

味噌・醤油蔵3軒、酒蔵2軒、そして薬味酒の蔵1軒が集まる新潟県長岡市摂田屋は、JR長岡駅から信越本線で1駅の宮内駅東口から徒歩10分ほど。奇跡的に第二次大戦時の空襲被害を逃れたこの町は、明治・大正期の建築物など往時を偲ばせるノスタルジックな街並みが保存され、各蔵元の主屋や土蔵は国の登録有形文化財に。いまも稼働している現役の蔵からは麹や醤油、酒の芳香があふれ、道行く人の鼻をくすぐります。

今回は、摂田屋の歴史やトリビアを教えてくれるボランティアガイド、服部紗智さんの案内で町を散策してみました。3回に分けてお届けします。  

旧三国街道の煙突がランドマーク 創業186年の老舗「越のむらさき」

ガイドの服部さんとの待ち合わせ場所は、最初の訪問先「越のむらさき」。レンガ造りの煙突が町のシンボルにもなっている、長岡藩時代の天保2年(1831年)創業の醤油醸造会社です。

「越のむらさき」主屋と白壁の土蔵の両方が登録有形文化財。摂田屋の醸造6社すべてが、文化財の指定を受ける建築物を所有しています。

「摂田屋の語源は“接待屋(せったいや)”。街道を行く人のための無料休憩所がここにあって、それに由来すると言われています。旧三国街道は、参勤交代で通る殿様も籠から降りて歩いたそうで、“殿様街道”とも呼ばれているんですよ」と服部さん。 摂田屋は室町時代から文献に登場する門前町で、宮内駅の場所に神社があり、参詣する人や旅人を接待する場所として名付けられたのだとか。長岡城と城下町が生まれた江戸時代に、この地域は東京・上野の寛永寺に寄贈され天領(江戸幕府の直轄領)となり、御領地として醤油・味噌、清酒の醸造業が発達。 「長岡藩では酒や味噌なんて贅沢品でしたが、ここは規制がゆるやかだったんですね。雪のおかげで良質な水が豊富だったこともあり、醸造の町として栄えたんです」(服部さん)

株式会社越のむらさき代表取締役社長の丸山博さんにもお話を聞きました。 「いまとなっては、だし醤油は当たり前に使われていますが、まだ一般的ではなかった昭和44年ごろ、先駆けて作った商品が『特選かつおだし 越のむらさき』で、これが看板商品となり、現在の社名にもなりました。醤油といえば生醤油(きじょうゆ)、当時は自分でだしを取るのが当たり前でしたから、最初は売るのに苦労したと聞いています。 醤油の製法は昔から変わっていませんが、現代の健康志向に合わせて塩分を控えめにしたり、核家族化や食文化の変化に伴い、新鮮なうちに使い切る小容量のボトルを発売したり、時の流れの中で商品のラインナップは少しずつ変化していきました」(丸山さん)

看板に歴史あり。明治~昭和期の「川上兄弟合資会社」から商号が3回変わり、現在に至ります。

地元出身の代表取締役社長・丸山博さん。創業家が代表を務めたのは7代まで、丸山さんは9代目。

この町の長い歴史においては、つい最近のことのようですが、2004年の中越地震で摂田屋も被災しました。 「弊社も蔵の壁にひびが入り、レンガの煙突が損壊するなど、この地域にも少なからぬ被害がありました。建物を壊すのは簡単だけど、壊したらもう二度と造れないなと町の人たちと話し合い、修復して残すことにしたんです。あの煙突はいまは使っていませんが、建設当初の2/3ほどの高さになっています」と丸山さん。 服部さんは「残してくれてよかったですね。町の財産ですから」と笑顔に。 「ここにはお地蔵さまとお稲荷さまがあって、毎年夏には感謝のお祭りが開かれ、酒まんじゅうが振る舞われます。お地蔵さまの台に、文化3年(1806年)建立、“右は江戸 左は山路”と彫られているのが見えますか? 旅人が道中の無事を祈願したそうです。 お稲荷さまの狐は親子で、子狐が“お母さん、僕を守って。大きくなったら僕がお母さんを守ります”と言ってるんですって。どちらも町の人たちに大切にされていますよ」(服部さん)

主屋の玄関前に鎮座する「道しるべ地蔵」が「越のむらさき」の商標に。

主屋向かい側の「竹駒稲荷」には、子連れのユニークなお狐さまが。

看板商品のだし醤油「特選かつおだし 越のむらさき」のほか、醤油、つゆ、味噌などを製造。家庭用の全商品をここで購入できます。Photo: Akiko Matsumaru

越のむらさき
[住所]長岡市摂田屋3-9-35
[電話]0258-32-0159
[営業時間]9:00~17:00 ※工場見学は要予約。所要時間は約1時間。
[定休日]土・日曜、祝日定休
[HP]http://www.koshi-no-murasaki.co.jp

  越のむらさきを後にして、竹駒稲荷前から南へ伸びる旧三国街道へ。道幅9尺(約2.7m)の狭い石畳の道です。巨大なタンクが見えてくると、界隈を漂う香りが醤油から酒へと次第に変化していきます。

美装化工事がまもなく完了する旧三国街道。越のむらさきから吉乃川へ向かいます。

独特の風合いが美しい壁面。「麹菌で染まって黒っぽくなるんですよね」と服部さん。

 

新潟県最古の清酒の蔵元「吉乃川」 「酒蔵資料館 瓢亭」で試飲も

次の訪問先は、天文17年(1548年)創業、469年の歴史を持つ蔵元「吉乃川」。日本有数の米どころ、良質な地下水、雪国ならではの低温醸造と、酒造りにぴったりの環境に恵まれ、地元の米と水で醸した看板ブランド「吉乃川」は、晩酌の定番酒として全国にファンを獲得しています。

夜はネオンが灯るサインが目印。工場から醸造の蒸気がもくもくと上がっています。

敷地内の木立に囲まれた一角にある「酒蔵資料館 瓢亭(ひさごてい)」へ。中に入ると、昔の酒造用具や写真がずらりと展示されています。

木のテーブルには水のペットボトルと小さなグラスが置かれていました。「お酒の仕込みに使われている『天下甘露泉(てんかかんろせん)』です。飲んでみてください。あちらの石碑が建っている場所、そこから地下水を汲み上げて酒造りをしています」と、瓢亭スタッフの野口さん。

「信濃川の伏流水と東山連峰の雪どけ水が混じり合った地下水で、この軟水が吉乃川の味を作っています」(野口さん)

DVDを見て吉乃川の酒造りの歴史に触れてから、お酒の試飲も。たくさんある中から気に入ったものを購入することもできます。

「瓢亭」の天井には、吉乃川のシンボルである瓢箪(ひょうたん)がたくさん。


ここでしか飲めない、買えない貴重なお酒も。利き酒をしてお気に入りを選んで。


仕込み水「天下甘露泉」。ドライバーさんはお水をどうぞ。

 新潟県独自の酒造好適米「五百万石」100%使用の「特別純米・摂田屋」は新潟県限定販売。ラッピングの紙には摂田屋の地図がプリントされています。酒米の生産量が限られているため、お酒も量産できないのだとか。ここでしか買えない瓢亭のオリジナル「瓢亭生原酒」もぜひ試してみてください。

瓢亭スタッフの野口さん。「全国からファンの方がいらっしゃいますよ。予約制なので、まずは電話をくださいね」。

町の名前を冠した「摂田屋」と、瓢亭オリジナルの限定酒「吉乃川 瓢亭生原酒」。お土産に買いたい逸品です。

吉乃川
[住所]長岡市摂田屋4-8-12
[電話]0258-35-3000 ※見学の連絡は酒蔵資料館 瓢亭へ
[HP] http://yosinogawa.co.jp
酒蔵資料館 瓢亭(ひさごてい)
[住所]長岡市摂田屋4-8-12
[電話]090-2724-9751(予約専用)
[営業時間]10:00~、13:30~、15:00~ ※完全予約制
[定休日]不定休、年末年始

  4月15日(土)に予定されている吉乃川の蔵開きに伴い、JR東日本新潟支社では新潟駅〜宮内駅往復の臨時列車・快速「摂田屋蔵開き号」を運行します。

宮内駅から歩いて10分、摂田屋で春の1日を楽しみましょう。

春の吉乃川のイベント「蔵開き 2017」 利き酒コーナー、ジャズコンサート、カクテルショーなど、イベント満載の1日。通常は非公開の「酒蔵」の特別公開も(事前申し込み後抽選)。入場無料です。
[日時]4月15日(土)10:00〜15:00
[会場]吉乃川 特設会場
[住所]長岡市摂田屋4-8-12
[電話]0258-35-3000 [HP] http://yosinogawa.co.jp/kurabiraki2017/

 

快速「摂田屋蔵開き号」 115系車両3両編成、全車指定席
[日時]4月15日(土)行き=新潟9:09→宮内10:23/帰り=宮内13:13→新潟14:22
[停車駅]新潟・亀田・新津・矢代田・加茂・東三条・三条・見附・長岡・宮内
[HP] http://www.jrniigata.co.jp

  【2】 へ続く。星野本店、長谷川酒造を訪ねます。  

Text: Akiko Matsumaru Photos: Tetsuro Ikeda (PEOPLE ISLAND PHOTO STUDIO)