赤飯なのに赤くない!? 長岡名物「しょうゆ赤飯」の謎

「赤飯」といえば、お祝いごとに欠かせないご飯。ささげや小豆で染めたピンク色のご飯は、「紅白」を祝いの色とする日本文化においては見るからにおめでたく、食卓に華やぎを添えてくれます。ところが、新潟県長岡市では、少々様子が違います。この街で「赤飯」と呼ばれているそれは、なんと、しょうゆ色。はっきりいえば茶色の「しょうゆおこわ」です。そのうえ、豆は大きな金時豆。いったい、なぜ長岡では赤くないのに「赤飯」といっているのでしょう。しかも、全国的には「赤飯」を食べるのはお祝い事があるときですが、長岡では日常的な食べ物だとか。ますます謎だらけの長岡の郷土食「しょうゆ赤飯」について、調べてみました。

平日のスーパーに
ずらりと並ぶしょうゆ赤飯

長岡に生まれ育った筆者にとっては、子どものころから「赤飯」といえば、しょうゆ味で金時豆の入ったおこわのことでした。それだけに、上京して、いわゆるピンクで塩味の一般的な赤飯を味わったときには「これが赤飯?」と不思議に感じたもの。その後、子供の頃から食べていた「赤飯」が長岡限定のローカルフードだったと知ったときは、ちょっとした驚きでした。

ピンク色の赤飯も、全国でコンビニのおにぎりやスーパーの惣菜のひとつとして売られており、特にお祝いでなくても食べられますが、そもそも、長岡のしょうゆ赤飯の場合は完全なる「日常食」。

長岡において「しょうゆ赤飯」がいかに身近な食べ物か。それが一目でわかるのは、地元スーパーの総菜売り場です。


「原信」の赤飯売り場。サイズは1人前(200g)~10人前(一升、2200g)までラインナップされており、予約注文も受けている。写真上の丸い容器が10人前。隣のやや大きな四角い容器に入っているのは5人前。

訪れたのは地元のスーパー「原信 川崎店」。ご覧の通り、しょうゆ赤飯がずらり……!


パッケージには「越後名物お赤飯」のシールと、値札には「正油赤飯」の文字が。2人前400g519円(税込)。越後製菓製で美味しいと評判。

ちなみに取材に伺った日は、特に行事のない平日の11時。いつもこのような品揃えなのでしょうか。店長の野村さんにお聞きしてみましょう。

「しょうゆ赤飯は、通年欠かさず置いています。今日はシルバーズデー(65歳以上の会員の割引特典日)なので、平日としては多めに置いてはいますね。川崎店はご年配のお客様も多いためか、赤飯は午前中によく売れるんです。その日の昼食や夕食用に買い求められるのだと思いますよ」(野村さん)

原信川崎店店長の野村洋平さん。

新潟県全域にチェーン展開する「原信」。いったいどれくらいしょうゆ赤飯に力を入れているのか、「原信」本部の営業企画部の大原隆さんにお聞きしました。「新潟県全域で、通年どこの店にもしょうゆ赤飯を置くようにしています。その中でも、やはり長岡と魚沼エリアが主力ですね」やはり、長岡では特別よく売れるようです。

どんなときに売れるんでしょうか? 「お盆や年末年始など、帰省のタイミングですね。それにもちろん、8月の長岡まつりのとき。さらに、各店舗、町内の祭などの行事に合わせて多めに仕入れるようにしているんです。お店によっては平台に山盛りにするときもありますよ」(大原さん)

川崎店の野村店長も「町内のお祭りのときなど、品切れさせないようにしていますね」と話してくださいました。祭のときには、しょうゆ赤飯を食べたい。そんな住民のニーズにこたえてくれる地域密着店、市民にとってはありがたいことです。

原信だけでなく、長岡では他の多くのスーパーはもちろん、和菓子店などでも日ごろから「しょうゆ赤飯」を置いている店が多くあります。予約しなくても赤飯がいつでも買えるのは、市民にとっては当たり前のことなのです。

しょうゆ赤飯のルーツとは?

そもそも、なぜ長岡の赤飯はしょうゆ味なのでしょうか? 長岡の赤飯のルーツについて調べている人がいると聞いて、地元で明治から続く「江口だんご」の江口太郎社長に会いにいきました。

江口だんごの代表取締役、江口太郎さん。

→古民家再生で日本のよさを今に伝える。老舗和菓子店「江口だんご」

——早速ですが、長岡の赤飯がしょうゆ味になったいきさつをお聞きしたいのですが。

「私も自社で赤飯を出していますから、長岡の赤飯のルーツについて、確かなところが知りたいと思ってかなり調べたんです。郷土史の研究家や、しょうゆ屋さんにも尋ねてみたりしたのですが、残念ながら、確かな文献というのが未だ見つからないのです。いくつかあるうちの一説ですが、長岡では昔ささげがなかなか採れず、ささげの赤い汁でもち米に色をつけることができなくて、身近にあったしょうゆで色付けしたのが始まりと言われています。摂田屋など醸造の町があり、しょうゆ造りが盛んだったから、という説もあるようですね」

起源は江戸時代にさかのぼるという説や、餅の組合が作ったという説など、ほかにも様々な説があるそうですが、はっきりとした起源についてはまだ謎なのだそうです。

「起源が江戸時代なのか、明治時代なのか、そのあたりはわかりませんが、少なくとも、昭和のはじめにはしょうゆおこわを赤飯といっていたことは確かですね。不思議といえば、長岡と近隣の一部を除き、新潟県内でも、赤飯といえばピンク色なんです。しょうゆ色のおこわを赤飯というのは長岡だけ、というのもおもしろいところですね。江口だんごでは、この郷土食を大事にしたいので、いわゆるピンクの赤飯は作っていないんです。10年くらい前から、このしょうゆの赤飯を『長岡赤飯』という名前にしましたが、商標はあえてとりませんでした。長岡のひとにとっては子どものころから当たり前だった、この赤飯を大切にしてほしいし、その美味しさが広まれば、と思っています」(江口社長)

江口だんごの「長岡赤飯」。1パック300g 432円(税込)。
長岡では結婚式の披露宴の引き出物としてしょうゆ赤飯をつけることも多い。「披露宴の引き出物として、長岡赤飯の掛け紙でなく、結婚式用の普通の掛け紙でお出ししたときに、県外のお客様から『掛け紙に赤飯と書いてあるのに茶色い』と問い合わせの電話がかかってきたこともありました」と思い出を語る江口社長。

一般的な赤飯では、ささげを使うか、小豆を使うか、地域によって違うそうですが、そもそも長岡では、金時豆を使うというのも変わっています。

「長岡では金時豆はささげほど採れないというわけではなかったんでしょうね。調べてみると、金時豆を使う赤飯というのは、金時豆の産地、北海道にあるそうです。でも、これは、なんと甘納豆の金時豆がピンク色の赤飯に入っているものだそうです。味の系統が全く違うんですよね」(江口社長)

飽きずに食べられる味つけも魅力

——他の地域ではお祝いの日のメニューですが、長岡では日常食というのも変わっていますよね。

「長岡の赤飯はお祝いごとにももちろん食べますが、常時食べる文化があるというのは、他の地域からしたら珍しいですよね。私は東京や九州で和菓子の修行をしてきましたが、東京でも赤飯は和菓子屋、餅屋、団子屋をはじめ、おこわやおにぎり、細巻寿司などを並べるようなお店で扱っています。でも、常時置いてあるわけではなく、予約注文で作ることが多い。長岡のお店では、常時置いてある店が多いですよね」(江口社長)

——長岡では昼ごはんや夕ご飯に赤飯ということも珍しくないのは、やはり、食べ飽きない味というのもあるのでしょうか。

「長岡の赤飯のたれには、しょうゆ、砂糖、みりんや酒が入っていたりするので、塩水で味つけする普通の赤飯と違って、単調ではないおいしさがあります。ベースが若干甘めというか、しょっぱいだけじゃないところがよくて、この赤飯と漬物と汁物があれば、十分な食事になる。シンプルだけど、新潟らしいお米のおいしさ、地元のしょうゆのおいしさがあって根づいた料理ではないでしょうか。地域の伝統食として、長岡名物として、多くの人に知ってもらいたい味ですね」

「江口だんご」の店舗ではふかしたての赤飯が食べられる長岡赤飯御膳を提供したり、栗や銀杏など季節ごとの食材を加えた新しい長岡赤飯の頒布会もしているという江口社長。お話しを聞いて、しょうゆ赤飯の魅力がいっそう深まりました。

作ってみよう!しょうゆ赤飯

市内のあちこちのお店で買うことができるしょうゆ赤飯ですが、本来は、各家庭で作られていた郷土食。自分でも作れるようになりたい……と以前から思っていた筆者。そこで、おこわ作りを得意とする、長岡生まれ長岡育ちの母に、しょうゆ赤飯の作り方を伝授してもらいました。

母がしょうゆ赤飯の作り方を教わったのは、料理上手な近所の方からだそう。与板の大きな鍛冶屋の家に女中奉公をしていたというそのおばあさんは、近所の人たちと集まっては、赤飯やちまき、笹団子などを大人数分作るような方でした。その教えをもとに、母なりの工夫を加えながら今の作り方にいたったそうです。

しょうゆ赤飯

■材料(4~5人分)
もち米 3合
金時豆 50g
重曹 少々
砂糖 小さじ1
★しょうゆ 大さじ2(麺つゆとしょうゆを好みの割合で合わせてもよい)
★酒 大さじ2
★みりん 大さじ1
★塩 小さじ1/3~1/2(濃縮タイプの麺つゆを使う場合は、塩を少なめに)
★水 大さじ2
煎りごま(白) 適量

■調理時間・参考
米の浸し時間は6~8時間が目安(一晩)。豆はできれば10時間以上浸す。もち米の蒸し時間は合計60~65分ほど。

■作り方
≪前日準備・豆を戻す≫
金時豆はざっと洗い、魔法瓶などの保温容器に入れて60~70℃の湯を口まで注ぎ、あれば重曹を少々(耳かき1杯程度)入れてふたをし、容器を横に寝かせて一晩置いて、豆を戻す。保温容器で戻すと、翌日のゆで時間が短くて済む。容器を寝かせておくのは、立てておくと豆が底につまって取り出しにくくなったり、豆のかたちが悪くなったりするため。

≪前日準備・もち米を吸水させる≫
もち米はといで、かぶるくらいの水につけて一晩置く。

≪当日≫
1. もち米をざるにあげ、水気をきる。せいろや蒸し器に濡らして絞った蒸し布を敷き、もち米を広げる。真ん中は薄めに広げるようにすると、蒸気の通りがよくなる(写真1)。

2. たっぷりの湯で、強火~中火で20分蒸す(写真2)。

3. もち米を蒸す間に、戻した金時豆をゆでる。戻し汁をきった豆を鍋に入れ、かぶるくらいの水を入れ、ふたをし、火にかける(写真3)。

4. 豆の皮を破らないように火加減は中火~弱火でゆでる。水と火の加減がよいと、ちょうど20~30分で水がなくなるくらいになる(途中で水がなくなれば少したしながらゆでること)。湯が残っていれば湯きりし、すぐに砂糖をまぶし(写真4)、ふたをして蒸らす(ふたをするのは、皮がやぶけないようにするため)。砂糖を豆にまぶすと、蒸し上がったとき、豆につやが出、味もメリハリがでる。

5. 打ち水用の水を100mlほど用意しておく。3のもち米に50mlほどの水を全体的にかけ(打ち水。写真5)、ざっくりと混ぜて、再度強火~中火にかける。蒸気が上がったら20分蒸し、途中2回に分けて残りの水も全体にかける。途中で蒸し器の湯の量も確認し、少なくなっていたら湯をたすとよい。

6. ★印の調味料を合わせておく。5のもち米を濡らした飯台(大きめのボールなどでも可)に移して、合わせ調味料を回しかけ、色が均一になるように混ぜる(写真6)。

7. 再度、蒸し布を敷いた蒸し器に移し、金時豆をのせて(写真7)、10~15分蒸します。

8. 食べてみて好みの硬さに蒸し上がっていれば、でき上がり(写真8)。軽く混ぜて、好みで煎りごまをふり、でき上がり(写真9)。

※せいろや蒸し器がない場合

炊飯器に「おこわモード」があれば、手軽な炊きおこわも作れます。水気をきったもち米を炊飯器の釜に入れ、合わせ調味料を入れてから、おこわ用の水加減をします(やや少なめにしたほうがよい)、4の金時豆をのせて(写真10)、おこわモードで炊きます(写真11)。飯台やボールなどに移して、煎りごまをふって出来上がり(写真12)。

初めてせいろでおこわを蒸してみたのですが、炊きあがりのつやつや感は感動もの。さらに、お米の粒がシャキッと立っていて、米のうまみを噛みしめている実感が沸いてきます。蒸し時間は1時間超と長いですし、打ち水をしたり、味をつけてまた蒸し器に戻したりと、手間はかかりますが、このおいしさは頑張る価値あり!  一方、炊飯器で炊くほうは、拍子抜けするほど手軽。米は柔らかくてややねっとり、もっちりした口当たりになり、米粒のシャキッとたった感じは出せません。あとは、豆の皮がやや破けやすいかもしれません。とはいえ、日常的に作れるのは魅力。少量を毎日作るなら炊飯器、特別な日のためにたくさんの量を作るとなれば、蒸し器を使うといいですね。

蒸し上がりをすぐに冷ますと豆の皮が破けるから気をつけて、と話す筆者の母。ちなみに「豆の皮がやぶける」ことを昔からの言葉では「ふがきれる」と言うそうで、「あの店の赤飯はふがきれてなくて上手だ」などと言うそうです。

母の話では、教えてくれたおばあさんは、合わせ調味料には、「いの一番」とか「味の素」などのいわゆる「うまみ調味料」を入れていたそう。実際に、しょうゆだけで作ってみた赤飯は品のよい味でしたが、麺つゆとしょうゆを半々にして作ってみると、ちょっとしたコクが出て、田舎料理らしい懐かしさを感じる味になりました。甘みとして、みりんを使うか砂糖を使うかによっても味が変わってくるそうです。江口だんごでは、「地元、長岡のしょうゆと酒を使って味をつけている」(江口社長)とか。郷土の素材を使えば、味わいもいっそう深まりますね。長岡の郷土の味、しょうゆ赤飯。みなさんもぜひ買って、作って、食べてみてください。

Text & Photos : Chiharu Kawauchi

原信 本部
[住所]新潟県長岡市中興野18-2
[電話]0258-66-6711
[HP]http://www.hnhd.co.jp/
しょうゆ赤飯は常時販売。また予約注文も各店舗にて行っています。お祝いごと用に熨斗紙、懸け紙の対応も可能です。
江口だんご本店
[住所]新潟県長岡市宮本東方町52-1
[電話]0258-47-4105
[営業時間]9:00-18:30
[定休日]元日のみ
しょうゆ赤飯の注文は、店舗で電話受付するほか、webで通信販売も行っています。
→ http://www.e-dango.com/product/r_sekihan.html