「発酵」というと味噌や漬物、納豆、そしてお酒など、「食べ物のこと」とお思いの方も多いはず。もちろん、それは決して間違っているわけではありません。
食品に含まれる有機物が酵母や細菌といった微生物のはたらきによって変性し、その過程でうまみが出るのが「発酵」。
一方、微生物のせいで食品が食べられなくなってしまうのは「腐敗」です。
「発酵」と「腐敗」は、実はほぼ同じもの。違うのは、「人間にとって都合がいいか」だけなのです。
ヌカミソが毎日かきまぜないと腐ってしまうように、食品がほどよく発酵するためには、人間の適切な関与が欠かせません。
「かきまぜる」「温度を管理する」といった調整的な関わり方によって、食品の中で微生物たちが心地よく暮らし、おいしい発酵食品を作ることを促すことができるのです。
言い換えれば、人間がやるべきことはただ環境を作って「促すこと」だけ。
微生物がいい感じに活動できる環境を作り、適切にメンテナンスするのが大事なんですね。
またもやヌカミソの話をすると、ヌカ床の発酵の過程では、実は時間とともに様々な種類の微生物が増えたり、減ったりを繰り返しています。
最初のうちは菌Aが頑張り、酸味が出る過程では菌Bがぐっと増え……と、発酵段階に応じて違う微生物がそれぞれのペースで活躍しています。ある時点を切り取ってみただけではなんのためにいるんだかわからない微生物も、長い目で見れば全員がひとつのヌカ床を形づくる存在。
用のないプレイヤーなどいないのです。
さて、ここでヌカミソを「長岡のまち」、そしてその中で生きる個性豊かな微生物たちを「私たち」と考えてみると、おわかりでしょうか。私たちが風通しのいい環境で安心して暮らし、思い思いの仕事や活動を自発的にのびのびと続けていくことが、長い目で見ればまちを元気にし、魅力的なまちを作ることになるのです。
個性豊かな市民の皆さんの多様な生き方を後押しし、あたらしい価値を生み出す環境づくりのお手伝いをしながら、一緒にこのまちを「おいしく、豊かに」していきたいと思います。
多くの酒蔵・醸造蔵が立地する長岡市において、登録有形文化財や歴史的建造物が立ち並ぶ「摂田屋」エリアは、まさに発酵ミュージアム。2020年10月には、一部建物をリノベーションし、アートやサイエンス、地域の食文化を体験できるコミュニティスペースがオープンしました。大切に守られてきた建物の未来に向けた活用は、地域で暮らす人と訪れる人が交わり場をつくり、新しい文化を生み出していきます。
企業、大学・高専、研究機関などが共同で微生物のはたらきを活用した新資源やビジネスの可能性を追究しています。環境負荷も低く持続可能な新事業をいち早く作っていくことで地元にも雇用を創出することを目指し、学術的にも経済的にも「この先百年の豊かさ」を考えていきます。
地域の未来を担うのは、若い世代や子どもたち。長岡市では「てくてく」「ぐんぐん」をはじめ市内13箇所に「子育ての駅」を設置し、子育て支援のスタッフの配置を行っています。子育て世代のコミュニティ形成やノウハウ支援、または困難を抱えた子育て家庭に対する相談や支援のネットワークに接続する窓口を設置するなどして、誰もが子育てしやすいまちを目ざしています。
長岡市は、2012年に「市民協働条例」を制定。それ以降、数多くの市民活動団体が誕生し、文化芸術に福祉、環境保全に地域の魅力発信と、市民一人ひとりが生活のリアリティの中から考えた「もっといいまちにしたい!」という想いを形にすべく活動しています。長岡市は、がんばる市民や団体が活動しやすい環境づくりに努め、そうした人や活動の「つながり」の場を大切にしながら、ボトムアップの新しい取り組みを応援します。
まちをつくりあげるのは、市民一人ひとりの「こんなことをやってみたい」という希望や「こうあったらいいな」という想い。暮らしにまつわる全てのアクションが、「発酵するまち」のきっかけになのです。
また、長岡市は若者の起業支援などを通じて、誰もが新しいチャレンジができるまちづくりを目指し、「長岡版イノベーション」の流れを作っていきます。
「な!ナガオカ」は、長岡市が運営する情報発信メディアです。2020年秋に「まちは多様なひとが暮らし、つながり合ってつくるもの」という点を重視してリニューアル。長岡で活動する一人ひとりの「ひと」の顔や活動をより見えやすくし、「伸び伸びと生きやすいまち」としての長岡をより魅力的にお届けします。
イラスト 町田ヒロチカ
編集・デザイン TISSUE Inc