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越路地域の宝徳稲荷のお膝元にある「食事処しょじょじ」は休みの日となれば行列ができる人気のお店。名物の天丼を求めて遠方からのリピーターも多く訪れます。
店主の西澤さんにお話を伺いました。西澤さんは昭和39年に東京で料理人を志して以来、25年にわたって東京で江戸前天ぷらを修行。日本橋の天ぷらの名店で料理長も務めた経験もあるそうです。
42歳で越路に戻ってからは宝徳稲荷の売店で腕を振るい、その頃に出会ったのが現在も使用している星野本店の醤油。この醤油を使えば東京にも負けない天丼ができると確信したそう。以来30年、味の要として使い続けています。万が一切らしたら大変と、いつでも注文できるように社長の連絡先を携帯に入れて備えています。
天丼の醤油は、濃口の「蔵元」と薄口の「白雪」をブレンドして使用しています。これにザラメやみりんを加えてかえしをつくります。
どちらの醤油も品評会で何度も受賞経験がある星野本店の一押しの醤油。もちろん、西澤さんが出会った時から味は変わっていません。品質を変えないことでお店の味を守っているんですね。
西澤さんが宝徳稲荷の売店で勤めていた頃からのお付き合いという星野常務。当時は信者の方が売店で味噌や醤油を買って奉納することが多くて、宝徳稲荷には樽がずらりと並んでいました。懐かしい思い出話に花が咲きます。関東からの信者さんが大勢いて、そこで長岡の味噌や醤油の味に惚れ込んで今も使い続けるお客さんも多いのだそう。
「この辺りは冬の間、出かけられないのが当たり前でしょ。内に籠ることには我慢強いけど、その中で美味しいものを食べようという方向に気持ちが向いたのではないかしら。それで長岡って舌の肥えた人が多いんじゃないかと思う。」という星野さん。
西澤さんによると、「東京の天丼は大手メーカーの醤油を使っているので、同じ割合でつくれば同じ味になる。どこのお店でも変わらずスタンダードな味ができあがる。」とのこと。
「大手さんはナショナルメーカーだから、全国を相手にしているでしょ。私たちは地域の人が好む味を作っているから違いが出るのかな。」と星野さん。
何度も試作を繰り返して作り上げたタレの味は、醤油がすっきりしているので、ガッツリした天丼のイメージとは違い、たくさん食べても胃にもたれません。もちろん揚げ方にもこだわりがあります。
高温の油で揚げた天ぷらを同じ温度のタレにジュッとくぐらせることで、油が落ちてお客さんのところへ行きにくくなるそう。江戸前の技術と地元の醤油、食材が組み合わさって、ここでしか味わえない天丼が完成します。
「一番は心がこもっているかどうか。天丼も星野さんの醤油も同じでしょ。食べてくれるお客さんへ気持ちが入ればおいしいくなるよ。」と西澤さん。
店内には常にJAZZが流れています。「心地よく食事ができて会話の邪魔にもならないでしょ。」と西澤さん。偶然にも星野本店の社長もJAZZがお好きなのだそう。最高の天丼を追求しながら、なるべく値段を抑えて提供するしょじょじと、長年安定した品質を作り続ける星野本店、お客さんと真摯に向き合う姿にも共通するものを感じました。
「この醤油がないとうちの天丼は成り立たない」と話す西澤さんと、「料理人の方に使ってもらってこそ」と話す星野さん。お互いに欠かせない存在という関係性がおいしさを醸し出しています。