長岡農業高校が酒造りに挑戦

醸造のまち摂田屋に隣接する長岡農業高校。学校でつくった野菜や味噌などの加工品を地元のイベントで販売するなど、生徒が主体となって地域に根差した活動をしています。昨年11月のHAKKOtripでもお世話になった農業高校の先生から、今シーズン久しぶりに日本酒づくりに挑戦するよ、という情報が入ったので、さっそく見学させてもらいました。

 

久しぶりの試験醸造

お酒の製造には酒税法に基づく免許が必要ですが、試験研究を目的とする場合には学校でも試験醸造の資格を持つことができるそうです。長岡農業高校はもともと免許を所有しましたが、指導できる先生が不在だったこともあり、しばらく中断していました。お酒の飲めない高校生と日本酒造りは不思議な組み合わせに感じますが、日本酒の醸造は食品科学科で主要科目として学んでいる「食品製造」「食品化学」「食品微生物」を横断的に学習できる優秀な教材になるのだそうです。もちろん生徒たちが地場産業を学ぶ機会にもなります。数年前から上越市の高田農業高校で醸造指導をしていた先生が長岡に集結されたことで、再び酒造りに挑戦することになりました。

 

2019年4月に「酒類醸造班」を立ち上げたところ、「なんか面白そう!」と手をあげたのは、3年生の稲田海誠さんと吉田健人さん。春から少しずつ醸造の事前学習やワインの試験醸造に取り組み、いよいよこの冬、日本酒造りに挑戦。今年は80ℓを仕込みます。この授業には、学校のすぐ近くにある吉乃川(株)からも指導やアドバイスをしていただいたそうです。

 

お邪魔した1月31日は、仕込みのクライマックス「留添」という作業の日。がらんとした広い実習室にいるのは酒類醸造班のメンバーだけ。二人は着慣れた様子の名前入りの作業着と帽子、長靴姿に身を包み、蒸米の準備をしていました。実は3年生の多くはこの時期は進路が決まってほっと一息ついているとき。周りの同級生は実習を終えている頃なのだとか。

 

今回の日本酒は、「初添え」「中添」「留添」と麹と水、蒸米の量を徐々に増やしていく「3段仕込み製法」で仕込んでいきます。この日は留添。前日までに仕込んだ樽のなかはぶくぶくと発酵していて、フルーティーな香りが漂います。「お酒は飲めないけど、おいしいものができている匂いがする」と稲田さん。

 

今年の暖冬の影響を受けて、日本酒の仕込みに少し苦戦しています。いつもなら酒の仕込みに最適な寒い時期ですが、今年は窓を全開にして、扇風機も強風にしても室温が下がりません。そこで、水に氷を入れて冷やす作戦に移ることに。氷と水を櫂でかき混ぜて限界まで温度を下げます。もろみに水と蒸米を混ぜて全体が8℃ほどになるのが目標なのだそう。低すぎると元気がなくなるし、高すぎると雑味がでます。

 

米が蒸しあがったら、蒸米も作業台に広げて冷まします。息もぴったり。

 

前日と同じ流れなので、作業がスムーズです。先生の指導のもと、蒸したお米を手早く丁寧にほぐします。

 

黙々と作業するのかと思いきや、蒸米をほぐしながら会話が弾みます。アットホームな雰囲気ですが、もうすぐ卒業する二人に対して、人生の大先輩である羽深先生からアドバイスが止まりません。「社会にでたら学校みたいに教えてくれないんだぞー!しっかりな。」逃げ場のない状況にタジタジの吉田さん…

 

 

適温になった水、蒸米、麹を投入して混ぜていきます。

 

これは麹。自分たちでつくっておいたものです。

 

すべての材料を入れたら均一になるように混ぜます。

途中経過もしっかり記録。ここでもやっぱり温度管理が重要。出来上がりの量もしっかり計測します。

 

仕込みの様子を2年生が見学しに来ました。(女子が多い!) 来年は挑戦してみたいと思っている子もいるようです。楽しみですね。

 

ここで作業は終了。この後、毎日交代で温度を確認して観察して、いまのところ2月17日に絞る予定だそう。どんなお酒が出来上がるのでしょうか。

 

 

最後に、今までどの過程が苦労したか質問すると「仕込み作業はどれも楽しいけど、それまでの準備が大変だった…」という答えが。というのも、しばらくの間中断しているうちに作業場ももの置き場になってしまったり、設備がそろっていなかったり、相当大変だったそう。

「物をどかして場所を確保するところから始まって、必要な道具もなくて、ホームセンターで木材をそろえて手作りしたんですよ。男子二人はいい働きをしましたよ。」と羽深先生からもお褒めの言葉が。手探りで再スタートした農高の試験醸造。後輩に続いていくと嬉しいですね。

今回の取り組みに地元のケーブルテレビやラジオ局、新聞社も取材に訪れました。先生はもちろん、生徒二人も自分の言葉で堂々とインタビューに応じる姿が印象的でした。

卒業後は就職、進学と新しい生活が始まる稲田さんと吉田さん。進む道は醸造関係ではないですが、この特別な経験はきっと二人の糧になるはず。いつかそれぞれの場所で社会を醸す大人になりますように。

今後も地域に根差した長岡農業高校の活動に注目したいですね。

 

 

 

(仕込み完了。「じゃーん!」のポーズをして、という要望に応えて)