“玄米みその元祖”柳醸造。多品種展開の先に見据えるビジョンとは?

新潟県長岡市の中心部から車で20分ほどの場所にある三島地域。のどかな農村地帯には質の良い水が湧き、酒造、味噌醤油醸造、製麺業などが栄え、豊かな食文化が育まれてきました。この地で130年余、地域に根付いた醸造所を営むのが「柳醸造」です。ホームページを覗いてみると圧倒されるほどの商品ラインナップで、味噌一つとっても赤味噌、白味噌、玄米味噌、無添加味噌、おかず味噌など、選びきれないほどの充実ぶり!いったいどんな蔵元なのか取材してきました。

地域に根を張りながら
全国展開する老舗醸造

細い路地沿いにある昔ながらの建物。看板が目印

住宅街の一角にある趣深い建物。こちらが柳醸造の本社と直売ショップです。

 

地元の人に愛される直売ショップ。おすすめ商品の詰め合わせはギフトとしても人気

店内を覗くと味噌、醤油、甘酒などの発酵食品がずらり。浅漬け、味噌漬け、ピクルスなど漬物のラインナップも豊富です。

 

柔和な笑顔の代表取締役・柳和子さん

会社の代表を務めるのは8代目の妻である柳和子さん。社員20名と共に「まっすぐに、醸し伝える新潟の味」をモットーとした商品を手がけ、新潟県内にとどまらず全国に発酵食品の魅力を発信しています。

 

全国初の玄米麹作りに成功!
看板商品「コシヒカリ玄米みそ」

看板商品「コシヒカリ玄米みそ」

材料や製法を改良しながら、これまでに生み出されてきた味噌は多種多様。中でも不動の人気ナンバーワンを誇るのが「コシヒカリ玄米みそ」です。

「新潟産コシヒカリの玄米100%を使用した『玄米麹』で仕込んでいます。玄米はビタミンやミネラル、食物繊維などが豊富で栄養価が高く、味はコク深くなるんです。実は玄米で麹を作るのはかなり難易度が高く、全国でも私たちが初めて製品化したんですよ」

つまり柳醸造は“玄米味噌の元祖”。健康ブームや発酵ブームに先駆けて、いち早くノウハウを生み出したとは驚きです。

 

試行錯誤の末に完成させた玄米麹(写真はイメージ)

考案したのは旧制広島高等工業醸造科(現広島大学)出身の7代目。通常、白米に付着した麹菌は、菌糸を米の内部外部へと伸ばしながら育ちますが、玄米の場合は固い皮に阻まれてうまく育つことができません。かと言って表面の皮を削りとってしまうと栄養価が低くなってしまいます。苦労を重ねながら約8年間かけて試行錯誤した末、独自の方法で表面に傷を付けて菌糸を育てることに成功。味噌の材料として使用したところ、まろやかで深みのある最上の出来となったそうです。

 

丁寧な仕事による味噌作りが
代々受け継がれる蔵内を見学

敷地内にある製造所では毎年約320tの味噌が作られています。週2回は仕込みをするという蔵内を見学させていただきました。

一度に約1tの麹を仕込む

まずは麹室(こうじむろ)へ。温度と湿度を調整しながら3日間かけてお米に麹菌を育てていきます。

麹蓋で作った麹。菌糸が伸びて板状になる

ちなみに販売用麹は「麹蓋(こうじぶた)」と呼ばれる杉板に小分けして製麹。稲わらを編んだ「こも」を水で濡らして麹蓋一つ一つの上にかけて水分調整をします。こうすることで適度な湿度を保てるそうです。

 

清潔に保たれた蔵内。丁寧に道具を扱いながら材料を仕込む

できあがった麹は蒸した大豆や塩と共に撹拌。基本的には機械を使用しますが、麹を入れる工程は手作業のため手間暇がかかります。

みそのいい香りが広がる発酵室。温かな環境で菌たちが元気に活動し、美味しい味噌になる

その後、温かい部屋にある大きなタンクの中で発酵。商品によって異なりますが加温熟成期間は30~90日ほど。自然の気候に任せる天然醸造味噌もあり、こちらは1年間かけてじっくり発酵させます。

数字が書かれたタンクには、それぞれ異なる味噌が詰まっている。ブレンドの配合は企業秘密

十分に発酵を終えたらいよいよ最終工程です。材料の配合や熟成期間などを変えた数種類の味噌を独自の比率でブレンドします。こうすることで甘みやコク、塩分などのバランスを調整し、消費者の好みに合うバラエティ豊かな味噌を生み出すことができます。

 

新商品開発やイベント開催で
「味噌の魅力」を伝えたい

丁寧に時間をかけて作る自慢の味噌ですが、食生活の多様化により徐々に販売量は減っているそう。味噌汁離れが深刻化し、人々の嗜好が変わってきているようです。
「昔はよく発酵熟成したコクのある味噌が好まれましたが、今の若い人は白くて甘い味噌を好むようです。さらに、塩分を気にする方も増えましたね。玄米味噌は色が濃いために塩辛いと誤解されやすいのが悩みの種です……」

大根、キュウリ、丸ナス、昆布などを特製床に漬け込んだ「味噌漬け」

まったりと舌に広がる旨味が格別な「クリームチーズの味噌漬け」

2種類のみそをブレンドしたソースがコク深い「やなぎのピザ」

お湯を注ぐだけで完成する「フリーズドライ味噌汁」

体にいい玄米味噌を選んでもらいたいと願う一方、消費者ニーズにも応えたい。その結果、「味噌を気軽に取り入れてほしい」と多種類の商品を生み出すこととなりました。

 

毎年恒例の「みそ詰め放題」

地元保育士たちによる太鼓演奏

さらに「支えてくれる地域の方々へ恩返しをしたい」と毎年秋には敷地内で「みそ祭り」を開催。小さなまちの蔵に1,500人のお客さんが押し寄せ、この時期の風物詩となっています。名物「みそ詰め放題」では制限時間3分で味噌を大量ゲットできるとあって、本気モードで挑む参加者たちでにぎわうのが恒例。大道芸や太鼓演奏などステージイベントも催し、味噌を通じてまちじゅうが盛り上がりを見せます。

「みなさんに味噌の魅力を知ってもらうため、アプローチを続けなければと使命感をもっています。私自身は、毎日具だくさんの味噌汁を飲んでいるおかげで健康ですよ。野菜をたくさん入れたり、さっぱりと豆腐とわかめでいただいたり。美味しくて体にいい味噌は最高の食品ですから」

変わりゆく消費者嗜好に対応するものの「情熱を傾け続けるのは、昔ながらの味噌」と繰り返す柳さん。食生活多様化の時代にあっても、日本人のDNAに刻まれた味として味噌が存在し続けることを願っています。そんな蔵元のこだわり商品は併設ショップの他、JR長岡駅ビルCoCoLo 1階お土産フロア、県内スーパーでも手に入れることができます。代々受け継ぐ伝統の味をぜひ試してみては?

 

柳醸造
[住所]長岡市吉崎100
[電話]0258-42-2336
[営業時間]8:30~17:00
[定休日]土・日曜、祝日